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HIVの完全な治療法はないが抑えることはできる

2019年09月20日
患者を診ている医者

梅毒やクラミジアなどの病気は細菌感染によって起こりますが、抗生物質(抗菌薬)を服用することで体の中の病原菌を死滅させて完治させることができます。エイズはHIVと呼ばれるウイルスが原因で起こる病気なので、抗菌薬で病原体を死滅させることは不可能です。それでもHIVの増殖を抑制するための抗ウイルス薬が開発されているので、このような薬を用いて治療をすれば体内の病原体の量を減らすことができます。

HIVは潜伏期でも免疫細胞に感染して増殖をすることで、免疫細胞が徐々に減少して免疫機能を破壊します。免疫細胞が減少すると日和見感染症や腫瘍などが発症してしまい、エイズが発病して死に至ります。もしも病原体の増殖を抑制させることができれば、免疫細胞がダメージを受けないようにすることが可能です。免疫機能を維持させることができれば、日和見感染症や腫瘍の発症を予防できます。

現在はHIVの増殖を抑制する抗ウイルス薬がいくつか開発されていて、機構が異なる3種類以上の薬を組み合わせて服用することで病原体の増殖を抑えることは可能です。抗ウイルス薬を組み合わせた治療法を抗レトロウイルス療法(ART)と呼び、標準的なHIV治療法として用いられています。

HIVの治療で使用されている薬は、大きく分けて5種類(ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤・非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤・プロテアーゼ阻害剤・インテグラーゼ阻害剤・侵入阻害剤)があります。いずれの薬も病原体の増殖を抑制するメカニズムの点で異なり、抗レトロウイルス療法では3種類以上を組み合わせた治療薬を毎日服用し続けます。使用する薬の組み合わせはいくつか考えられますが、ウイルスのタイプや患者の体質に合わせて副作用の少ないものが選択されます。抗レトロウイルス療法が開始された頃は副作用が強いというデメリットがありましたが、最近は副作用の少ない薬が開発されています。

HIV治療では、必ず複数の抗ウイルス薬を組み合わせた治療薬を服用する必要があります。この理由はHIVは変異をしやすいという性質を持つことが関係していて、1種類の薬を服用してもすぐに薬剤耐性を獲得して薬が効かなくなってしまうからです。病原体が薬剤耐性を獲得してしまうと、以後は同じ種類の薬の効果が得られなくなってしまいます。HIVが薬剤耐性を獲得しないようにするためには3種類以上の薬で増殖を抑制する必要があり、常に有効成分の血中濃度を保ち続けることが求められます。

HIV治療ではウイルスの増殖を抑制して検出限界以下に抑えることができますが、病原体を完全に死滅させることはできません。この理由は、HIVはメモリーTリンパ球と呼ばれる免疫細胞に潜むからです。メモリーTリンパ球は以前にかかった病気に対する免疫が記録された細胞で、同じ病原体が再び侵入した際にすぐに抗体を生成して病気の発症を防ぐ役割を果たします。メモリーT細胞は70年以上にわたり生き続けるため、途中で治療を中断するとすぐにHIVが活動を開始して増殖をします。このため、治療薬を飲んでもHIVを完全に排除させることは不可能です。

HIV治療を受けても病原体を死滅させることはできませんが、免疫機能を維持させることで日常生活を送り続けることは可能です。治療を続けることで健常者とほぼ変わらない生活を続けて、平均寿命まで生き続けることができます。